今日もせつなさが丘の上に立つ

代官山にある、西郷山公園には思い入れがあります。

自主保育の移動幼稚園(公園を巡って遊ぶ)で日々をエンジョイしていた幼少期のわたしも、あの、丘のような地形に立つ公園に作られた道には他の公園にない面白さが体感としてあり、好きだった。坂道を駆け回りサルビアの赤い花の蜜を吸ったあとに友達が、知らないおじさんに「こじきがいるー!」と叫んでひどく怒られた。


10代後半から20代前半にかけて、私は気のいい彼氏と5年ほど過ごしたのだけど、彼と夏の暑い日に自転車であの公園までの坂を駆け上がり、公園の階段を登り、木陰で休憩しながら、下界に拡がる街を共に眺めた。


30代で第2子を妊娠したときは配偶者に、臨月の大きなお腹を抱えた記念写真をそこで撮ってもらった。

わたしは薄ピンク色のワンピースを着て、なかなか可愛く撮れたから満足していた。


そして最近は、淋しくなると、ふと足を運びたくなる場所になった。

私は30代後半である人に出会った。

私たちはお互いを好きだったと思う。

見つめ合い、はにかんだ。

まるで存在しなかったかのように短く、何も起こらなかったその人との日々の間に、わたしは自分の半分を置いてきてしまったまま、どこにも行けずにいる。

この街のどこを探しても会えることのないあなたを、私は西郷山公園の丘の上からなら、見つけられるような気がしているのかもしれない。